雪と、キミと、私と。
雪と、キミと、私と。
……あ。マフラー忘れた。

晴れた空を見上げて気付きつつ、数十メートル戻る時間がなくてそのまま駅へと向かった。
冷やりとした空気が頬を撫で、無意識に背を丸める。
ホームに無事いつもの時間に辿り着くと、いくつか浮かんでる雲をもう一度眺めた。
そうしてふと、思い出す。

――故郷の冬を。

23になった私は、社会人一年目。
どうにか内定を貰って就職できたのは、故郷から離れた東京という街。といっても、大学から来てたからもう慣れたものだけど。

私の生まれ育ったところは、雪が降り積もるのが当たり前だった。
だから、真っ白な景色もそり滑りも雪かきも、特別なことではなくて、普通のことで。
今ではこんなに寒さに弱くて、今日は忘れたけど、マフラーもして、手袋と厚手のコートも着て。なのに、昔はなんであんな寒い中毎日のように外に出て遊んでいられたんだろう?

気付けば列車が止まってドアが開いた。
混雑してるのは毎日のこと。その通勤ラッシュにもまれながら、今日も満員電車に乗り込んだ。

「おはよ。廣岡さん」

会社に着くなり、声を掛けられて振り向く。
そこにいたのは同期の須藤くん。

「おはよう。今日も寒かったね」
「え?出身北海道でしょ?」

驚いた顔して並んで歩く須藤くんに、溜め息混じりで答える。

「どこで住んでたって、寒いものは寒いの。第一、家の造りも違うから、よっぽどあっちの方があったかいよ」
「ふーん」

須藤くんは家は出てるみたいだけど、ずっとこっちに住んでる人。
そんな他愛ない話をしてロッカー室まで辿り着くと、「じゃああとで」と言葉を交わして彼と別れた。

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