遊川さんは今日も最強

俺も一口含む。日本酒はあまり飲まないが、とろりと甘く、飲みやすい。
もっと匂いがキツイものかと思っていたが冷酒だからか匂いは全く気にならない。


「旨いですね」

「でしょでしょ。ほら、もっと飲みな」


注がれて注ぎ返して。横を向けばごきげんの遊川さん。
この距離感はかなり楽しい。

とは言え、今日は悠長に楽しい時間だけを満喫していてはいけない。

仕事中に思い余って遊川さんに告白しようとしたのは、今日の定時過ぎのこと。
その壁ドン騒動から、俺達の関係は微妙に変化しようとしている。

気持ちはもう伝わったものかと思うが、ここは男らしくはっきり告白して、男前な彼女の気持ちをガシっと掴みたいわけだ。

それで、「仕事終わりに飲みに行きましょう」と言ったら、遊川さんがおすすめの店に連れてきてくれた。


ここまではいいのだ。



問題は遊川さんのおすすめ店があまりにも通な店で、どうしたらいいのか分からず俺がテンパっているってことだ。

料理は店主のオススメが出てくるらしい。
遊川さんはこの店の常連らしく、「いつもの値段で適当に」とだけ言って席に着いた。そんなのも格好いい。

男らしいところ見せてバッチリ告るつもりだったのに、遊川さんの格好良さを見せつけられて完全に雰囲気に飲まれている。

遊川さんは、自分の行動が俺を威嚇しているとは思っていないようで、ニコニコ笑いながら体を俺の方へ傾ける。

日本酒好きなんだな。いつもの飲み会よりすっげぇ嬉しそう。


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