真夜中のパレード


「……じゃあ、天音さんから私の欲しい物を一つもらってもいいですか?」


「はい!」


透子は顔をほころばせ、元気よく返事をした。
しかしその威勢のよさはすぐになくなる。




「目、閉じてください」

「え……?」


それで彼の言いたいことが分かった気がした。



どうしよう。断るのは、簡単だけど。


そう思いながらためらいがちに彼を見上げると、返事はどちらでもいいというような余裕を感じた。


自分の心に問うと、嫌ではないと返事がかえってくる。


透子は迷いながら、そっと目を閉じる。
噴水の水がパシャパシャと音を立てているのがよく聞こえた。


頬にそっと指が触れる。
思わずぴくりと身体が震える。


それから唇にも、少し堅くて温かい物が触れた。



瞳を開くと、すぐ目の前に彼の顔がある。
至近距離で彼を見て、透子の顔が赤く染まった。



「……これが欲しい物ですか?」


そう質問すると、嬉しそうに微笑んだ。


「はい」


上条は、本当に大切な物を扱うように自分に触れる。
愛おしそうに向けられた熱い視線を受け取るだけで、頬がどんどん熱くなる。


それから彼は照れくさそうに肩を揺らした。


「ちょっとずるかったですか?」


差し出された手をそっと握る。


「ずるいですよ」


彼の広い背中を見ていると、ぎゅっと胸が締め付けられた。



それから心の中で、口には出来ない言葉を呟いた。




……ずるいですよ。
そんなことをされたら、好きになってしまいます。


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