姉の身代わりでも
変わらない日常



いくら遅くなっても、私は決して仁史の部屋に泊まることはない。散々抱かれ疲れきった今も、タクシーを拾って何とか実家にたどり着く。


仁史と再会した時に決めた、自分なりのルール。決して彼の迷惑にはなるまいと考えて、極力異性として振る舞わないよう努めてきた。


会社では幼なじみだと誰にも明かしてないし、自分から声を掛ける必要がある時は、最低限な内容にする。他の人とは軽い雑談もする仁史だけど、私には決して無駄口をきかないし、目を合わさない。名前を呼ぶ時は“二科(にしな)さん”と義務的に呼ぶ。


姉と似てきた私を見るのが辛い、と解ってはいる。だけど、もう少しだけ許して欲しい。きっと、きっともうすぐ私は必要なくなるから。


彼が、姉以外に初めて愛する人ができるまで。そうしたら私は……。


だから、私は決して私物を仁史の部屋に残さないし。部屋に出入りする時も一人きり。仁史と出掛けたり、食事にだなんて贅沢は望まないから。


あと、ほんの少しだけ。あなたの側にいることを許して欲しい。


< 6 / 11 >

この作品をシェア

pagetop