口の悪い、彼は。
 

私が働くのは“CLO×CLO”(クロクロ)という時計メーカーで、その歴史は20年と浅いものの、顧客満足度の上位に名を連ねている延び盛りの会社だ。

私は昔から時計が好きで、それに関わる仕事がしたくてこの会社を第一希望として就職活動をしていたんだけど、幸運にも内定をもらい無事に入社することができた。

入社してから私の中でCLO×CLOの製品がより身近なものになって、深く知っていくごとに製品に対する愛情や誇りが年々高まっていくのを感じている。

街中を歩いている時にふとCLO×CLOの時計を見掛けるとすごく嬉しくなるし、CLO×CLOのペアウォッチをつけているカップルの姿を見掛けることもあって、その時には毎回、この先もずっと二人の時間を一秒一秒共に刻んでいってほしいと心から願うのだ。

CLO×CLOの時計がたくさんの人の生活に溶け込んで、幸せを一緒に刻んでいってくれたらいいなと思う。

そんな私の会社での仕事は営業事務で、社内の電話のやりとり、伝票整理や営業資料作成、営業さんからの在庫問い合わせ対応、営業に関する雑務などを行う。

時計の魅力を直接お客さんに伝える立場にはいないけど、その立場にいる営業さんたちが動きやすいようにお手伝いができることだけで十分やりがいのある仕事なんだ。

今も営業さんたちが頑張って取ってきた契約や売上のデータをパソコンに打ち込んでいるところ。

うーん、でも。


「まったく甘いんだよ、あいつはっ!」


カタカタカタカタ、タン!というキーボードを叩く音と部長の“独り言”が気になって集中力が途切れてしまった。

入社してからすぐにこの部署に配属されて3年目で慣れたとは言え、やっぱり気になってしまうのだ。

部長はイライラしている時にEnterを力強く押す癖があって、それでいつキーボードが壊れてしまうか気が気ではないし、この独り言のことが黒崎(くろさき)社長に伝わったら問題にならないのだろうかと思ってしまうから。

 
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