口の悪い、彼は。
 

考えても意味のないようなことを考えてしまっていた私は、気を取り直して、午前中に作った先月末の取引状況や営業成績をまとめた資料をプリントアウトする。

今日の部長はカタカタとキーボードを打ったり、取引先に電話したりと、今のところ穏やかな様子だ。

電話をしていない今がチャンス。

私はプリンターに出てきた資料を手に取り、必要なものはホッチキスで止め、部長に持っていく。


「あの、部長。お疲れ様です」

「お疲れ」

「先月分の取引状況と営業成績のリストができました」


資料を差し出すと部長は「あぁ」と言ってすっと受け取り、パラパラと一通り目を通し始める。

今日は目を通す余裕があるらしい。

凡人の私には信じられないんだけど、部長は速読ができるらしく、もちろん後で再度細かく目を通してくれるらしいけど、受け取った時に問題ないかを伝えられる。

あまりにも忙しい時や、部長が外回りでオフィスにいない時に提出しておいた資料でミスがあれば、後で呼び出されて怒られることもしょっちゅうではあるけど。


「確かに」

「よろしくお願いします!」


何も言われなかったということは、今の時点で大きなミスはなかったということだ。

後は小さなミスがありませんように、と祈って過ごすだけ。

ほんの小さなことなのかもしれないけど、“ミスを作らない”という当たり前の小さな積み重ねをしていくことで、部長の中で『高橋には仕事を頼んでも問題ない』という信頼度が上がればいいなと思う。


「高橋」

「えっ!?」


ほくほくとした気持ちで戻ろうとした瞬間、部長に名前を呼ばれた。

私は慌てて部長の方を振り向く。

まさか、ミスがあった!?

 
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