口の悪い、彼は。
実際の片付けに入る前、今すぐに使わなさそうなものは使う時にどこにあるかわかるようにリストアップして、倉庫に置いておいてはどうか、と部長に相談をした。
すると、「いいんじゃねぇか。好きにしろ」という短い言葉だけを告げられ、ああしろこうしろと言われることを覚悟していた私はその呆気なさにポカンとしてしまった。
せっかく相談内容に関しては何も言われなかったというのに、ぼんやりとしてしまった私の態度に対して怒られてしまったことも鮮明に記憶に残っている。
それと同時に感じたのは、部長の「好きにしろ」という言葉から、もしかしたら私は昔よりも信頼してもらえているのかもしれないということだった。
実際は部長が『信頼しているから好きにしていい』なんて言葉を言うはずもないから真実はわからないけど、それならそれでしっかり役目を果たそうと決め、今は責任を持って仕分け作業を行っている。
ただ、私が入社してくる以前からある資料が多く、私に判断ができないものに関してはリストをまとめ終わった後に部長にしっかり確認してもらってから、倉庫に持っていくつもりだ。
よし、と次のファイル資料の確認に移ろうとした時、オフィス内に甲高い電話の音が鳴り響いた。
「!電話電話っと~」
私はタブレットや資料を落とさないように踏み台から慎重に下り、鳴っている電話に足早に向かう。
オフィスに掛かってきた電話を取ることも、もちろん私の仕事だ。
基本的には営業の人には携帯電話の方に連絡をする決まりになっているとは言え、内線番号を押す方が楽だからと営業1課のオフィスに掛けてきて、携帯に繋いで欲しいと言ってくる社員も多いのだ。
「はい、お疲れ様です。高橋です」
電話に出ると、受話器から聞こえてきた声は企画部に所属する同期の須々木(すずき)くんのものだった。