倦怠期です!
翌12月18日の金曜日。
昨日あんなことがあったから、仕事には行きたくなかった。
もしかしたらお父さんにひょっこり出くわしてしまうかも、と思ったら、正直怖かったし。

産業部と公共部は毎月20日締だけど、今月は20日が日曜だから、今日が締日だ。
だからそんな理由で仕事を休むわけにはいかない。
逆に忙しい分、お父さんのことを忘れて仕事に没頭できるだろうと自分に言い聞かせながら、私は重たい足取りでアパートを出た。



幸い、お父さんに「偶然」会うこともなく会社に着いた私は、営業がどっさり持ってきた契約伝票からファイルを作ること、そして受注伝票を全て書き起こすことに集中した。
戸田さんが「これも!」と言いながら土壇場で持ってきた伝票が、今月は珍しく少なかったおかげか、30分ほどの残業で終わることができた。

今月の売上高まで計算して、課長に報告することまでが、私の締の仕事だ。
だから課長は私が終わるまで、いつも残ってくれている。
営業の人たちの大半も、残ってくれているんだけど、「数字が気になる」というのは建前。
本当は下っ端の私を残して帰るには忍びなくて、待っててくれていることくらい、私は知っている。
予定がある人は、もちろんそっちを優先させているけど、その心遣いがとても嬉しいし、丁寧に、かつ素早く終わらせようという私のやる気に、スイッチが入る。

「今月もよくやった」という達成感に浸りながら、まだ残っていた営業の人たちに「おつかれさまでした」と挨拶を済ませた私は、着替えるために更衣室へ行った。

「あぁ終わったー」と私が呟いたとき、倉本さんと、公共部で事務をしている二人の田中さと福田さんが、更衣室に入ってきた。

「おつかれさまです」
「おつかれさまー。今月は割と早く終わったね」
「そうですねー」

なんて話しながら、みんな着替えをサッサと済ませていく。
ストレートの長い茶髪に、念入りにブラッシングをしている若い田中さんを見た倉本さんが、「デート?」と聞いた。

「そうですねー」という曖昧な答えで受け流している田中めぐみさんは、実は小沢さんとつき合っている。
でも、めぐみさんから「内緒ね」と言われているので、私はその話の輪に加わることなく、帰る準備に専念した。

そのおかげもあるし、私の場合、ノーメイクだから化粧直しする必要はなく、ショートヘアだから艶出しムースをつける必要もない上、みなさんより早く更衣室に来ていたから、一番早く帰る準備ができた。

大体今から家に帰るだけだもんね。
オシャレする必要はない・・・お父さん、待ち伏せしてないといいんだけど。

私はその思いをふり切るように、わざと明るく「お先に失礼しまーす!」と挨拶をすると、サッサと更衣室を出た。

昨日のことがあったので、今朝お姉ちゃんが、彼の佐々木さんと一緒に車で会社まで迎えに来ようかと言ってくれた。
だけどお姉ちゃんも今日は締日のはずだ。
ということは、たぶん私よりも遅くなるから断った。
時には色々厳しいことを言うお姉ちゃんだけど、本当は私のことを心配してくれてるんだよね。

寒さについ私が首を竦めたとき、会社の玄関前に立っている、有澤さんと水沢さんが見えた。
・・・あ!
お父さんとの騒動が頭の中を占めていた私は、「今日の同期忘年会は不参加」って言いそびれていたことを、すっかり忘れていた。

私に気づいた水沢さんが手をふってるのを見て、申し訳ない気持ちが増していく。
あぁどうしよう・・・。

ひとまず私は二人のところへ駆けて行った。

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