倦怠期です!
「コバちゃんには言ったのか」
「うん。初めて会った10月にね。お父さんの借金が原因で離婚したってことだけ。私も詳しい事情は聞かされてなかったし。他の人には誰にも・・・言ってない。高校のときの友だちとは、もう会ってないし。会社(タハラ)の人には・・・今言ったのが初めて」
「そうか」
「・・・私ね、お母さんに毎月10万渡してるんだ」
「マジで!?それ、すずの給料のほぼ全額じゃん」
「うん・・・でも生活費も含めてだから。お姉ちゃんも同じようにしてるよ」
「偉いなぁ、すずはぁ」
「あはっ。ありがと」と私が言ったとき、ピンポーンとドアチャイムが鳴った。


有澤さんが言ったとおり、同居している仙崎さんは、「着替えを取りにきただけだから、すぐ行く」と言ったんだけど・・・。

深刻な顔をしている有澤さんと、出来上がりつつある水沢さん、さらに泣いたおかげで目と鼻の頭が赤くなってる私を見た仙崎さんは、「俺も話聞かせて」と言うと、その場にドカッと座り込んだ。




有澤さんから事のあらましを聞いた仙崎さんは、人さし指で銀縁メガネを押し上げると、「なるほど」と呟いた。

「お父さんからは、友人の保証人になってしまったばっかりに、借金を背負うハメになったって聞いてたから・・・そういうことなら仕方ないって私、思って・・・。でもホントは、お父さんのギャンブルが原因だって」
「あっちゃー」と言った水沢さんに、私はクスッと笑った。

すごくシリアスな話をしてるからこそ、酔っ払いつつある水沢さんの面白いリアクションは、返ってありがたい。
もしかしたら有澤さんは、それを見越して、水沢さんが飲むのを容認してるのかもしれないとまで、私は思ってしまった。

「だからお母さんは、そんなことのために私とお姉ちゃんのお金を使わせたくなくて、それで離婚に踏み切ったって」
「ヘタすれば、おまえが借金の肩代わりをさせられるかもしれないしな」
「うん。お母さんは、それを一番気にかけてて」
「お父さん、おまえの引っ越し先、知ってるのか?」
「ううん、知らない。電話番号も教えてない。お母さんとお姉ちゃんからは、絶対あの人には知られるなって言われてる」
「そうだな。それが賢明だ」
「すずのお父さんは、今どこに住んでんの」
「まだマンションにいるよ。電話番号も変えてないから、私たちはあの人の居場所も分かるし、連絡先も分かるってわけ」
「あぁ、なるほどなー」
「マンションはあの人が買ったものだから。できればそれ売って、利益の一部でもいいから、慰謝料としてお母さんに払ってほしい」
「シビアだなー、すずは」と言う水沢さんに、有澤さんが「現実的ってことだ」と言った。

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