倦怠期です!
「はい」
「ありがと。なぁすず」
「はい?」
「さっきの話の続きだけど」
「ん?」
「すずがお母さんの世話しないといけないと思ってることは、別に悪いとは思わない。今までの状況から、おまえがそう思うのもよく分かる。ただな、親の世話することよりも、自立して、ひとりでもちゃんと暮らしていけることが、一番の親孝行だと俺は思うんだ」
「あ・・・」

・・・因幡さんもだけど、有澤さんも時々、ものすごくいいことを言う。
私の心の目が覚めるくらいに。

「たぶんお母さんも、おまえに世話してもらうことより、今みたいにまっとうな職に就いて、自分の力でお金を稼いでいることのほうが、より大切だと思ってるんじゃないか?」
「・・・うん。そうだね」と私は言うと、何度か頷いた。

「だからひとり暮らしの夢は諦めるなよ」
「うん!」





タハラ商事は、31日の午前中で仕事納めとなる。
だから、年末最後の週になると、1・2時間かけて社内の大掃除を各部手分けして行い、30日までに終わらせる。
営業の人たちは、顧客やメーカーへあいさつ回りもあるし、冷熱1・2課は、下の倉庫の大掃除もあるから、結構大変だ。

「やっぱりジャージ、買ったほうがいいかな」
「どアホッ!」
「ぎゃっ!いなばさんっ!埃がついてるほうきで、おしり叩かないでくださいよー!」
「ジャージ買うよりボディコンワンピ買え!」
「嫌です。それより貯金したほうがいい」
「おまえは・・・女だという自覚が足りなさすぎだ!」
「イナ!すずにちょっかい出すなら掃除しろ!」と中元課長に叱られた因幡さんは、「はーい」と言いながら、渋々掃除の続きを始めた。


12月31日の大みそかは、普段の仕事はしないので、女性社員は制服を着なくていいと、倉本さんから言われた。
この日は「今年もお世話になりました会」みたいな感じで、朝から軽食と飲み物がふるまわれる。
みんなで雑談しながら、ほんの時々かかってくる電話に対応する。
顧客もすでに休みに入っているところが多いし、納品作業もないから、電話はほとんどかかってこない。

そして、顧客やメーカーからいただいたお歳暮の品が、くじで全員平等に分け与えられて解散となる。
ここでもらえる品がたくさんあるため、社内でお歳暮とお中元の贈り合いはしないことになっているそうだ。

私は、コーヒーセットと、高級焼き海苔をゲットした。
使える消え物ばっかりで、すごく嬉しい!
なんて実用面ばかり重視している私は、やっぱり女としての潤い度が足りないのかもしれない・・・。

「有澤さんは何もらった?」
「焼酎。俺、普段飲まないしなぁ。おまえも飲まないし。実家に持ってくか」
「そういえば有澤さん、いつから里帰りするんだっけ」
「今日。ぐーたらに過ごして、4日にこっち戻ってくる」

「ぐーたら」って言い方が、私の笑いのツボにはまってしまった。

「なんだよ」
「ん・・なんか、おもしろかった・・・」
「あ、そ」と言った有澤さんも、ニマニマしている。

「もう切符買った?」
「ああ。夕方発だから、おまえを家まで送る時間はあるぞ」
「でも・・・」
「荷物もあるだろ?」
「うん・・・じゃあ、おねがいします」
「そーそー。素直でよろしい」

結局、お父さんのことがあってから、年末の仕事納めまで計7回、有澤さんは私をアパートまで送ってくれた。

「ありがとう。気をつけてね」
「おう。じゃ、良いお年を」
「有澤さんもね!」

私は、白いフェスティバに軽く2・3度手をふって見送りながら、「男の人って、ボディコン着てる女の人のほうが好きなのかな」なんてことを考えていた。


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