Sweet Lover
と、考えてはたと気づいた。

やっぱり本当は、【彼女】がいるんじゃないかって。
気まぐれで、親友の子供の面倒をみようかと思ったけど、それじゃ自分の人生が楽しくないって気づいたの――?


「私、彼女との、邪魔ならしませんよ?」

だから、できれば傍に置いて欲しい。


「――え?」

私の言葉に、響哉さんは形の良い瞳を丸くした。

「だって、本当は彼女がいるんでしょ?」

「なんで俺がそんな面倒なこと提案するって思うわけ?」

「わかんないわよ。
 最初から今まで、何もかもさっぱり。
 でも、彼女さんがいるから、朝食の食材が家にあったって考える方がしっくりくるし――。

 けど、それなら最初から目の前に現れてほしくなかった……です」

「彼女――っていうのが、結婚を前提にしたお相手ってことなら、今までの人生でマーサ、君一人しかいない」

ひどく、真剣な目でさらりと言う。

「じゃあ、家に帰れって言わないで」

響哉さんは、ふわりと極上の笑みを浮かべた。


「そうだな。
 てっきり、マーサが不安そうな顔をしているのは、やっぱり家に帰りたいからだと思っていたけど――。
 そんな勘違いが原因だって言うなら、取り消すよ。
 悪かった」

そうして、私の頭にキスを落とす。

「では、正式にお父様に挨拶にいかなきゃ、だな。
 お手をどうぞ。お嬢様」

普段なら、歯が浮きそうなそんな台詞も、今の私の心を甘くからめとっていくスパイスにしかならなかった。

ドキドキしながら掴んだその、大きな手は、ひどく頼もしいものに思えた。
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