婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
一人で寂しい想いをさせたくない…なんて、それは綺麗ごと。

一晩中そばにいて、私は彼を独占したいのだ。

自分にこんな強い感情があったとは意外だ。

葛城は私の頬に手を添えてゆっくり顔を近づけて来たので反射的に目を閉じる。

そのままそっとキスをした…額に。

私はおでこを押さえて恨みがましい視線を向ける。

「今日は止めておくよ」葛城は眉根を寄せて困ったような表情を浮かべる。

「色々あった勢いで、そうゆう関係を持つつもりはない」柔らかだが確固たる口調だ。

「…だめ?」

私は小鹿のような瞳を潤ませて葛城を上目遣いで見上げる。

「遥との一番最初のときは、その…ちゃんとしたいから」葛城は言葉を選びながら言う。

『最初のとき』を私は生々しく想像をしてしまい、瞬間湯沸かし器のことく顔を真っ赤に染めた。

「そういうリアクションやめて。こっちまで気まずくなる…」葛城は苦笑いを浮かべる。

「あの…嬉しいです」私はボソリと呟くと葛城の上着を両手でギュと握りしめた。

そのまま背伸びをすると、唇にそっと口づける。

久々に味わう葛城の唇の感触はとても柔らかくて背筋がゾクリとした。

私は名残惜しそうに、ゆっくりと唇を離す。

葛城は顔を真っ赤に染めて視線を横に逸らした。

て…照れてる?あの葛城さんが?

私もつられるようにして、再び赤面してしまう。

「あの…おやすみなさい…」私はぎくしゃくと頭を下げる。

「ああ、ゆっくり休みたまえ」動揺からか、葛城の口調は微妙に変。

なんだか昔の高校生カップルのような初々しさを私達は醸し出す。

私がくるりと踵を返しホテルの方へ戻ろうとすると葛城に「遥」と呼び止められる。

「あの、連絡するよ」

「待ってます」

いつもと違う別れ際の台詞が嬉しくて、私は満面の笑みを浮かべた。
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