この恋、永遠に。

鳴らない電話

 誰もいないロッカーで制服に着替えた私はスマホを取り出すと、アドレス帳を開いた。
 画面に映し出されたのは『本宮柊二』の名前と彼の番号。
 あの夜以降、もう何度もこの画面を開いては眺めている。
 あれから一週間経つが、まるであれは夢だったのではないかと思えるほど、彼からの連絡はなかった。
 その度にスマホを開いては彼の名前と番号を眺め、夢ではなかったと言い聞かせる日々を過ごしている。私は何を期待しているのだろう。

 また連絡すると言われ連絡先を交換したが、果たしてそれは本当だろうか。恋愛経験のない私が知らないだけで、こういったことには本音と建前があるのかもしれない。ゆえに自分から連絡するなど出来るはずもなかった。

 私はスマホを制服のポケットに沈めると、社員証を確認してからロッカーを出た。

 この本宮商事には制服がある。だがそれは全女子社員が着るわけではなく、部署によって異なる。
 私のいる資材部や総務、経理など内勤に従事する部署の女子社員には制服が用意されており、これを着用する義務がある。
 しかし、営業や企画、広報など、社外で仕事をする機会が多い部署は相応しい服装で、という注意があるだけで自由だ。
 私はいつも綺麗なスーツに身を包んで華やかな仕事をしている彼女たちに憧れていた。

「渡辺さん、今日からこれお願いできる?」

 資材部がある、社屋一階の片隅、小さな部屋のドアを開けると、上司の関根さんが開口一番そう言って部屋の片隅に置かれた郵便物を指差した。
 上司と言っても資材部だ。ここで一番長いのが関根さんというだけで、上に指示を仰ぐようなときや、決済の資料などは全て総務の方へ回して処理される。ここでは何も処理できない。

 そもそも『資材部』と名前はついているけれど、実際は総務部の一部に位置づけられていて、組織図的には総務部資材課、みたいなものである。与えられる仕事にも一貫性がない。

 私はプラスチックの大きな箱が幾つも山積みになった郵便物に目を移した。
 確かこれは山口さんの仕事だったはず。
 山口さんは私より三つ年上で、人と争うことを嫌う物腰が柔らかい男性だ。いつも笑顔で、この会社に入ったばかりの私にも色々よくしてくれている。どういう理由でこの資材部に配属になったのかは知らないが、優しいだけでは仕事は出来ないということなのかもしれない。

「山口さんはどうしたんですか?風邪ですか?」

 小さな部屋だ。見回さなくても山口さんがいないことなどすぐに分かる。私は関根さんに聞いた。

「ああ、山口くんは昨日付で辞めたから」

「えっ!」

 突然の報告に私は愕然とした。何も聞いていなかった。毎日わりと仲良く話していたと思ったのに、辞めようか悩んでいた事など、全く知らなかった。
 私の動揺を悟った関根さんは呆れたように肩を竦める。

「ここは資材部だからね。突然誰かが辞めるなんて珍しいことじゃないよ。むしろ会社からしたら、願ったりってところだろうね。無駄な人件費も浮くわけだし」
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