この恋、永遠に。
 それでも俺は辞めないけどね、と関根さんは薄い笑みを零した。関根さんは結婚して妻子もいるし、簡単には決断出来ないのだろう。

 私は?私はどうなのだろうか。
 入社してすぐにここに配属になった。まだ何もしていないのに、だ。

 でも、萌ちゃんの従姉妹もこの会社から内定をもらうことが出来なかったと言っていたのだ。萌ちゃんの話を聞く限り、私よりもずっと優秀で綺麗な人らしいのに、それでも入ることが出来ない会社。
 そんな会社に親の口利きだけであっさり入社した私はやはり最初から不要な人間なのだろう。
 入社して半年。ずっと分かっていたつもりだったけど、今は堪えた。

 本宮さんも、私をいらないと言うだろうか。
 私が本当は彼の思うような大学生ではなく、ここの社員だと知ったら、それも入社早々資材部に配属されたと知ったら、どう思うだろうか。

 あの、目尻に皺を寄せて柔らかく笑う彼の顔が浮かんだ。
 そして、仕事中偶然見た、厳しい顔つきの彼も。
 事実を知ったとき、彼はどちらの顔を見せるのだろう。それを想像すると、私の目の前は真っ暗になる。

「それじゃ、そういう訳だから、今日からそれは渡辺さんにお願い。別に急ぐ必要はないよ。どうせ暇だし、ゆっくり回ってくれればいいから」

 関根さんはそれだけ言うと、コーヒーを飲みにリフレッシュコーナーへと消えてしまった。
 私は目の前に積まれた青いプラスチックケースの前にしゃがむ。
 各部署ごとに分けられたケースからは、請求書や納品書などからダイレクトメールやカタログまで、様々な郵便物があった。中には本当に接待で使っているのかどうか疑わしいお店からの招待状らしきものまである。

「こんなもの、会社宛に送るなんて…」

 ブツブツ言いながら私はその、きついピンク色をした封筒を汚らわしいものでも触るかのように摘んだ。
 そして次の瞬間、その宛名を見て固まる。

『専務取締役 本宮柊二 様』
 その封筒には、確かにそう書いてあった。


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