この恋、永遠に。
 それにも頷いた彼は、仕立てのいいスーツの袖を少しまくると、車窓から漏れるネオンにかざして時間を確認した。チラリと覗いた彼の男らしい腕の筋肉に私の女の本能が反応し、胸が高鳴る。私でも知っている高級ブランドの時計の針は深夜一時を指していた。

「今日はこのまま送ろう」

「えっ?」

 私の反応を予想してでもいたように、本宮専務がニヤリと笑った。

「何?帰りたくなかった?」

 さっきまでの紳士な彼とはまるで別人だ。獲物を追い詰めるのを楽しむ野生のライオンのように、瞳の奥を光らせて私を捕らえる。

「な、何を言っているんですか」

「君が、まだ帰りたくなさそうな顔をしているから」

「そんな顔してません」

「そうかな……」

 隣に座る本宮専務が、後部シートで私との距離を詰めてくる。
 私は思わず身構え、彼とは反対側の窓へと体をずらした。
 だが、それはすぐに限界を知る。
 私の背中が窓にピッタリとくっつき、逃げ場がないことを告げた。

「ほら…素直になった方がいい」

 本宮専務の右手が私の頬へと伸びる。触れるか触れないかの距離を掠められ、私の体がゾクリと反応した。
 それを感じ取った本宮専務はますます笑みを深くする。
 ゆっくりと彼の顔が近づいてきた。
 どうしよう…キス、される―――。
 あと数センチ。
 彼の吐息がかかった。
 だがその瞬間、私の体がビクリと強張る。ギュッと閉じた視界の中、ゴンッと鈍い音が車内に響いた。

「……痛っぁ」

「………」

 本宮専務に詰められた距離から逃げていたことも忘れ、私は頭を抱えると前屈みになる。
 打ち付けて痛む頭を押さえた。窓に頭をぶつけたらしい。
 涙目になって堪えていると、私の隣で大きな溜息が聞こえた。
 本宮専務だ。きっと呆れているのだろう。

 彼ほどの男なら、女性経験も豊富に違いない。そしてその彼女たちは、私みたいに子供じみた反応をする人など、いなかっただろう。
 痛いやら、恥ずかしいやらで、私は顔を上げることが出来なくなってしまった。
 だが、呆れた溜息を吐いたと思った彼は、私の後頭部へと腕を伸ばし、そっと確認するようにそこを撫でた。

「ああ…少し膨れているが大したことはなさそうだ。冷やすほどでもない」

「あ、あの……?」

「……急に迫って悪かった」
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