今度こそ、練愛

事務所から出てきた高杉さんが足を止めた。
私たちの背後から息を潜めて作業を見つめているのがわかる。どんな表情をしているのかと気になって振り返ると、きゅっと口角を上げて手を伸ばす。



「いい感じになってきたわね、もう少しココを……」



高杉さんがささっと手を加えただけで、全体的に纏まりと奥行きが生まれてきた。質感が出て、ずいぶん立派に見えてくる。



「ありがとうございます、見違えますね」

「さすが高杉さん、もっと早く教えてくださいよ」



仲岡さんと一緒に頭を傾けて、いろんな方向から眺めながら感心していたら店のドアが開いた。
お客さんかと思って身構えたけど、配達から帰ってきた岩倉君。まっすぐ私たちの所へやって来て、花を凝視する。



「高杉さん、直した?」

「うん、ちょっとだけね。わかる?」

「わかるよ、もっとペタンとしてたのに直ってるし」

「それぐらい、直してもいいでしょう? 山中さん、何にも言わないわよ。さあ、仕上げましょう」




仲岡さんと私の不安を払拭するように、高杉さんはにこりと笑ってくれた。
岩倉君は花を見ながらひと言。



「白いカラー、悪くないよな」



聞き取りにくい声で呟いた。






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