今度こそ、練愛

「また代行のお仕事をお願いしたいんです、引き受けていただけますか?」

「了解しました、では一度打合せをしましょう、いつにしましょうか?」



よそよそしい声が耳障りなほど山中さんと重なる。今どこに居て、どんな顔をして電話をしているのか見てみたい衝動に駆られてしまう。



「明日は……どうですか? 日中はお忙しいですか?」



わざと悩んだふりをして問い掛けた。



明日なんて私は無理に決まってる。
朝から仕事が入っているし、ましてや日中なんて抜けられるはずない。午後には山中さんが宿題の採点に来る予定。



だとしたら、川畑さんだって無理でしょう?



山中さんとして、午後に店に居なければいけないんだから。



思った通り、川畑さんは答えない。
電話の向こうで返事に困っているに違いない。



どんな答えが返ってくるのか楽しみな反面、少し不安もある。化けの皮を剥がしたとして、川畑さんは何と言うのだろう。



「明日ですか……わかりました。午後になりますが、御都合いかがですか?」

「え? 明日、午後……ですか」



予想しなかった川畑さんの答えに驚いたのは私。余裕で構えていた頭の中が、急速に混乱して返すべき言葉が見つからない。






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