今度こそ、練愛

「やっぱりいいよ、俺が行くから留守番お願いできる?」

「え? 私が留守番ですか?」



正直なところ、ひとりで留守番するのは不安だ。花の名前はなんとかわかったものの、アレンジメントやブーケをひとりで仕上げるのはまだ自信がない。ひとりで仕上げた後、添削してもらいたい。



「急に配達の依頼が入ったんだ、雨降ってるからいいよ、一人で留守番してて」

「配達は近くですか? だったら私が行きます、お得意様が来た時に岩倉さんがいないと困りますから」



と言うと岩倉君が手を止めた。



岩倉君を贔屓にしてくれているお客さんがいる。そんなお客さんに失礼があっては、岩倉君も困るだろうし私も困る。
これまでに失礼があったのは一度きりだけれど、後で怒られるのはもう嫌だ。



「本当に行ける? 一駅先の会社なんだけど……小さなアレンジだから紙袋に提げたら電車で行けるから、頼んでもいい?」



岩倉君にしては珍しく申し訳なさそうな口調。無愛想な表情も緩んで、心配そうな目で私を見てくれている。



「はい、電車なら慣れていますから任せてください」

「ありがとう、すぐに仕上げるから準備してて」

「わかりました」



私の返事を待たず、岩倉君はすぐにアレンジの作業を再開する。
ひとりで配達は少し不安だけど、無愛想ばかりではない岩倉君を知ってほっとした。





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