今度こそ、練愛

川畑さんが小さく首を振る。
悲しい目を見ていたら、頭が混乱してきそう。



もう仕事は終わったはず。
母の事など口に出さないでほしい。いつまでも昭仁を演じて謝ったりしないで、川畑さんに戻って違約金でも請求してくれればいい。



私たちには特別な感情も繋がりもない。
単純に需要と供給で結ばれた一日限りの関係なのだから。



「川畑さん、悪いのは私です。契約を破って申し訳ありませんでした、おいくら支払えば……」

「有希、契約なんてどうでもいいよ」



私が言い終える前に、強い口調で名前を呼ばれて抱き寄せられた。



名前で呼んだということはまだ彼の仕事が続いているということなのか、さっき帰ったと思った母が再び戻ってきたから演じているのだろうか?



川畑さんを何と呼べばいいのかわからないまま、腕の中に抱かれて動けない。動いていいのかさえ判断できないでいると、頭上から声が舞い降りてきた。



「仕事ではなくお礼を言わせてほしい。さっきは僕自身が君の行動に助けられたんだ、本当にありがとう、君のお母さんに心配をかけて申し訳なかった」



それは川畑さんではなく、昭仁を演じているような優しい声だった。






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