今度こそ、練愛

そう言えば、まだ聞いてなかった。
何にも紹介してもらってないけれど、岩倉君って本当にもうひとりの従業員なのかしら。頭がパニックになってたせいで、勝手に思い込んでいたけれど。



「さっきの方も、もちろん従業員ですよね?」

「そうよ、岩倉達規(いわくらたつき)くん、二十五歳。彼もここに来る前は事務職してたみたいだから、大隈さんと話が合うかもね」



なんて高杉さんが言うけれど、今後彼とはまともに話ができるとは思えない。いや、ここで仕事を続けていくには彼と上手くやって行かなきゃ。



「そうですか、彼も転職されたんですね」

「すごく頑張り屋さんで、熱心に花のことを勉強したり接客も手抜きしないから、お客さんに人気なのよ、とくに中高年の女性にね」



と言って高杉さんは笑う。
確かに岩倉君は若くて可愛らしい雰囲気でカッコいい。あんな風に気軽に話してくれたら親しみやすいのだろう。



川畑さんとはタイプが違う感じ。
ふいに脳裏に浮かんだ川畑さんの顔に自分でも驚いて、慌てて掻き消した。
どうして、こんな時に川畑さんが……



ともかく私は、早く花の名前を覚えなくては。
これ以上、岩倉君に怒られないように。
ここで気持ちよく働いていくためにも。






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