年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
ふうーん、とあんまり納得していないようにまた私を見回しながら、明日香ちゃんが言った。

「まあいいですけど。木下さんも、ちょっと仕事でトラブってるみたいだし、絵里に付き合う気になれないのもわかりますしね」

「なに、よしゆ……木下くん、なにかやらかしたの?」

「遠慮しないで祥裄って呼べばいいですよ。
……ちょっと大口の取引先を怒らせちゃったみたいですよ。単純な発注ミスだけど、気付くのが遅れて、大事になっちゃったらしくて。何回も謝りに行ってるらしいです」

それも全然知らなかった。私の前では、祥裄の話をしないようにみんなが気を遣ってくれていたんだろうか。

「こんな時、沙羽先輩ならきちんと話を聞いてあげれるんでしょうけど、絵里相手じゃ弱音も言いにくいですよね」

まあ自業自得ですけど、とつまらなさそうに言って、明日香ちゃんは自分の席に戻っていった。


祥裄はなんでいきなり昔の話なんかしだしたんだろう、と不思議だったけど、あいつも弱ってたんだ、と思うと納得がいく。

付き合う前はよく、お互いの失敗を慰め合ったりしていた。仕事内容はわかるけど他社の人間、という存在は貴重で、慰めも変に構えずに、素直に聞き入れられたものだ。

ただ私の姿を見かけて、少し話を聞いてもらいたかっただけなのかもしれない。なのに私が最初から拒絶した態度を取ったから、イラッとしたのかも。


髪を触られて強引にキスされたのはムカつくけど、もう少しきちんと話を聞いてあげたら良かったかな、とちょっと申し訳なく思った。
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