年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
高城(たかしろ)さん、とおっしゃるそのご夫婦は、旦那様がイタリアン、奥様がカフェでそれぞれ修行されて、お子さんに手がかからなくなったのを機に二人の店をオープンさせることになったそうだ。


自然が溢れる、開放的な空間にしたいんです、と、旦那様の浩二(こうじ)さんが目を輝かせながら言った。


「昔から海が好きで、水平線を眺めながら歩いたり、流木とか貝殻を拾ってきて飾ったりしていました。だから今の場所も出会った時にすごく運命を感じたんです。
海の風を感じて自分を解放できる、そんな場所にしたい」


隣で控えめにその話を聞いている奥様の美和子(みわこ)さんも、同じような輝いた目をしていた。

自分たちの理想を追い求めて、胸を膨らませている人の目。

小川さんの設計も、自然素材を多く取り入れて、光の入る開放的な空間に仕上がっていた。


二人の熱意を前に会話が弾んで、私の中にも次々とアイデアが浮かんでくる。ナチュラルな素材、色味も温かみを持ったもので統一して、くつろぎを感じることができる場所。


初回の打ち合わせとしては上出来だった。お二人と共通のイメージを持つことができて、私の提案に対する反応も良かったと思う。

「感覚が似ている方にお願いしたいと思っていましたけど、片桐さんはまさにその通りの人です。プランを見るのが楽しみだ」

帰り際に浩二さんが残してくれた言葉に、俄然やる気がみなぎる。お二人の想像を超えるようなプランを提案したい。


住宅でも店舗でも、決して安い買い物とは言えない。これからの人生において大きく関わってくるものを自分たちに任せてもらえる、というのは、嬉しいと同時に責任も重大だ。
うちに頼んで良かった、私に頼んで良かった、と言ってもらえる喜びは、なにものにも代え難いといつも感じる。


デスクに戻ってさっそくプランを練り始める私を見て、平山さんは期待してるぞ、と肩を叩いて去っていった。
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