年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
グラスに口をつけながらそっとマスターをうかがい見ると、そんな私ににっと楽しげな笑みを寄越す。

「二人ともいい男なのはわかるからな。沙羽ちゃんも大変だ」

「……なんで知ってるの?」

「バーっていうのはそういうところ。普段は押し隠してる心の中も、ぽろっと出ちゃうもんだ。俺はいろんなやつの本音を知ってるよ。大輔の本音も、祥裄の本音も」

「ものすごく興味を惹かれるお話ですね」

「でも教えてあげないよ。お客様の秘密を守るのもバーテンダーのお仕事」

だったら本音を知ってる、なんて私に言わなきゃいいのに。
むっと膨れると、マスターはますます楽しそうに笑う。


「沙羽ちゃんは誰の本音を知りたいの? 大輔? 祥裄? 二人の本音なんて、もう大体わかってるだろ?」


その通りだ。二人はちゃんと気持ちを伝えてくれて、それで私は祥裄を選んだ。
大輔くんももうすでに、自分の幸せをきちんと見つけ始めている。

「一番わかんないのは自分自身の心の中かもね」

「もう迷ってなんかいません。私は祥裄と結婚するので」

「その割には浮かない顔だね。もっと幸せいっぱいの顔したら?」

そう言われると返す言葉がなくて、私はまた、グラスに目を落とす。口に含むジントニックの炭酸が、いつもより強く感じた。
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