初春にて。
 後で凛子に聞けば、彼女はけらけらと笑いだした。
「ああ、あれな。昔から板書の時だけかけんねん、眼鏡。それでなくともアホ面に、更に鼻眼鏡のトッピングとか、もうお腹一杯やって」
 でも、彼の横顔は真剣な眼差しが印象的で、むしろそんな人と幼馴染だという凛子が羨ましく思えたほどだった。
「あの時。またえらいちっこいのが隣に来たなって思って。単なる好奇心で眼鏡外したんやけど」
 彼の視線が少し泳いだ。
「実はその後の事は、よう覚えてひん」
「え?」
 彼は困ったような顔つきで、頭をがりがりと掻いた。
「……凛子の取り巻きの割には、その、なんやこう、毛色が違うというか」
 急に歯切れが悪くなる。
「だからその、すごい、色の白い、かわいい、子やな、と」
 にわかに私の頬が熱を帯びた。
 私たちが付き合いだすまで、彼の私に対する態度の中にそんな素振りは微塵も感じなかったから、正直びっくりだ。
「ま、とにかくそれ以来、俺はずーっと片想いだったの。ここまでは理解できてる?」
 私は頭まで回った火照りを持て余しつつ、こくりと頷いた。そのとたん、彼がにっこりと笑うと。
「ふあぁっ!」
 また、猛然と私の躰を攻め出した。
「ああ、やっぱり、ユズがいい」
 彼のピッチが速くなっている。私も彼のペースに乗せられて、徐々に体が高みに向かっていく。声も上げさせない勢いで交わす口づけが余計に躰中を沸騰させる。
 ふいに唇が離れると、彼の眉間には更に深い皺が寄っていて。
「あかん、もう」
 なんて切ない顔なんだろう。
「我慢できひんっ」
 その表情に、私まで一緒に引き上げられてしまった。
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