食人姫
道を引き返し、未来と別れた俺達は、哲也の家に向かって歩いていた。


口数は少ない。


どうしてこうなったんだと、お互いに思っているに違いなかった。


さっきの集団の中に、勝浩の親父さんもいた。


どんな思いで、勝浩を下ろしたのだろう。


一切取り乱しもせずに、こうなる事を予期していたとでも言うのだろうか。


「……勝浩は、昨日の俺だ。光の父さんが来てくれなかったら、俺もああなってた」


薄暗くなってきた道を歩きながら、死の恐怖を振り払うようにそう呟いた。


「ああ、そうかもな。でもよ、俺達が一体何したってんだよ。勝浩が何をして、殺されなきゃならねえんだよ……」


哲也に、いつものような威勢はない。


消えてしまうような弱々しい声で、ブツブツと呟いているだけ。


あのノートに書いてあった、谷に降りかかった不幸。


それは、漫画なんかで目にする、「子々孫々」とか「末代まで」とかいうものなのだろう。


恨み……怨念……呪い。


そういった負の力が、誰というわけでもなく、この谷を覆っているのだ。


「皆に……教えてやらなきゃな」


哲也の背中をポンッと叩いた俺は、そのまま押すように道を歩いた。
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