初恋も二度目なら
・・・会社、辞めようかなと本気で考えた。
でも、ジムやエステ通いでお金使ったし、痩せてサイズが変わったから、お洋服や下着も私にしては奮発して買ってしまったので、結構あったと思う貯金額は、ひとり暮らしを機に減っていき、ここ6年の間に激減した。
という現実面から、会社を辞めるわけにはいかない。
無職な上に、毎月決まった収入額まで失うなんて大それたこと、私にはできない!

何より、長峰さんとおつき合いしていたことは、6年前の過去のこと。
もう長峰さんに恋愛感情を持っていないことを証明する試練・・じゃなくって、チャンスを与えられたと思えば・・・。
何より、長峰さんの方が、私なんかに恋愛感情を持ってるわけがないんだし。

・・・そうよ。これは私にとってチャンスなのよ!
新たな恋に踏み出すチャンス。
そして、長峰さん以上に素敵な人とおつき合いをして、もしかしたら結婚ってことに・・・。

「レディースファースト」
「・・・はっ?」

私はつい、隣に立っている長峰さんを見てしまって・・・後悔した。
この人、6年経っても相変わらずカッコよくて、颯爽としてて。
体型も全然変わってないのに、彼を取り巻く周囲のオーラに、さらに威厳が増したような気がするのは、若干37歳で、一気に「部長」にまで昇進したせいなのかな。
だから隣に立っていても、この人を痛い程意識してしまうのかな、私は。

長峰さんは私を見たままフッと笑うと、「女性から先に挨拶をしてくれ」と言った。

「あ。じゃあ・・・」
「私行きます!今日・4月1日付でこちらに入社・営業事務に配属になった、芥川さつきです!名字から“本好き?”とよく聞かれるんですけどー、趣味はー・・・・・・・」
「長い」
「す、すみませ・・・」
「俺は3分スピーチをしろとは言ってない。挨拶をしろと言った。次」
「は・・あ。はいっ。総務から異動で営業事務になりました、卜部です。ご指導、よろしくお願いします」と私は言ってペコッと頭を下げると、前から拍手が聞こえた。

頭を上げると・・・私の同期で、ずっと営業にいる川端くんが、拍手してくれていた。
それから川端くんにつられるように、みんな拍手をしてくれたおかげで、ピリピリしていたその場が和らいだ気がするし、私も緊張が解けた。

でも隣にいる長峰・・部長を、意識せずにはいられなかった。

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