私だけの魔法の手。

顔が見たい気もするけど、顔を知らないからこそのドキドキも楽しく感じてしまう。
擬似恋愛じゃないけど、なんだか中学生の頃、好きな男の子の姿を見かけてキャーキャー言ってた頃のような、淡い想いが楽しいのだ。



今は仕事でいっぱいいっぱいの私は、恋愛をしている余裕なんてないから。
いい大人が、と思われそうだけど、こんな擬似恋愛でも充分だったりする。





ウィッグを相手にカットの練習をしているのか、パラパラと落ちる髪の毛が見えて。
聞こえる訳でもないのに、ファイト!なんてガッツポーズして、ゆっくりと駅に向かう足取りは、さっきまでの重さが嘘みたいに軽かった。




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