最後の恋にしたいから
「本当に、ありがとうございました。何から何までお世話になって……」

帰る頃には、すっかり雨は上がっていた。

マンションに着き車から降りると、運転席の窓を開けた課長が顔を出す。

「全然、気にしなくていいから。それより、早く休んだ方がいい。また、明日。あっ、それと……」

何かを思い出したかのように、課長は私を見据えた。

「たぶん今頃、彼は後悔してると思うよ。古川に吐いた言葉を。じゃあ、おやすみ」

「はい……。おやすみなさい」

笑顔を向けた課長は、一回軽くクラクションを鳴らすと、車を走らせた。

メタリック調のシルバーのセダンタイプ。

それが、課長の車だ。

「運転も上手だし、名越課長のことを知れば知るほど、ファンが増えそうね」

それだけじゃない。

最後まで、人への気遣いを忘れない人だもの。

「後悔してるか……」

そうかな。

たとえそうじゃなくても、付き合っていた二年間だけは、ウソにして欲しくない……。

部屋に入り一人になると、また寿人を思い出してしまう。

今夜はせっかく、みんなの憧れの名越課長と距離を縮められたというのに。

やっぱり、寿人のことばかりを思い出してしまって、その夜は寝付けれなかった。
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