最後の恋にしたいから
付き合っていても、私を好きではなかったと言った寿人。

それは本当にショックで、あの時は頭の中が真っ白になったっけ。

だけどあの夜、偶然にも課長に出会い、こうしてここで告白をされたことこそ、まるで夢みたいだ。

「祐真さん、本当に私でいいの……?」

自信なく呟く私の頬を、彼は笑顔を浮かべて両手で包み込む。

「奈々子がいいんだよ。元カレには、自分を出せないって言ってたけど、オレとは違うだろ? 少なくとも、オレにはそんな風に写ってない」

「うん……。そうかもしれないな……」

今さら気付いたことだけど、課長がストレートにいろんな感情を見せてくれるから、私も変に隠さずに済んでいたのかもしれない。

そう考えたら寿人とは、お互いに気持ちを探り合っていたように思える。

「奈々子、返事はゆっくりでいいから、その内聞かせて。じゃあ、帰ろうか」

頭を優しく撫でてくれた課長は、ゆっくりと身を翻し、元来た道を戻ろうとする。

だけど私は、咄嗟に彼の浴衣の袖を掴んで引き止めていた。

「待って、祐真さん!」

すると課長は驚いた様に、肩越しに私を見た。

このドキドキを言葉にするなら、きっとこれしかない。

それを今伝えなければ、絶対に後悔すると思う。

「私も好き。課長の顔も、そうでない顔も。もっともっと一緒にいたいって、そう思うの」
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