不機嫌な君
…圭介は何着か、自分の衣類を置いている。そのせいか、勝手に湯船をはり、俺より先に勝手に風呂に入る。いつもの事なので気にもしてないが。

「お前も入ってこい」
「・・・あぁ」

圭介に促され、俺も風呂に入る。
…風呂から上がると、いい匂いが部屋中に漂っていた。…圭介はうちに泊まると、必ず料理をしてくれる。…一軒店を出せるんじゃないかというほどの腕前だ。

「…相変わらず、お前の料理は美味いな。…葉月さんもこれに惚れたのか?」
「当たり~。葉月の胃袋を掴んだのが、俺の勝因?」

そう言ってニコッと笑う圭介。

「…でも、お前がそれだけ料理が上手いと、葉月さんの料理が…」
「あ?あ~、葉月、普通に料理は出来るけど、ご飯系より、スイーツ系の方が得意なんだよ。だから、葉月のリクエストにオレが答えて、オレのリクエストに葉月が答えてくれるから、上手くいくんだよ、意外に」

「…ふ~ん、そんなもんか」
「そうそう」

ビールを片手に、圭介の料理を堪能し、ほろ酔い気分になった頃。

「・・・で?ひとみちゃんになんでフラれたんだよ?引き留めたりしなかったのか?」
「…出来る事はやったつもりだよ」

簡単に、その時の事を話す。・・・その後、しばらくは圭介は何も言わなかった。・・・まぁ、言う言葉なんて、見つかるわけもないが。

「・・・それってさー」
「・・・なんだよ?」

「…お前の親父、関係してないのか?」
「…親父?」

俺の言葉に頷いた。
「社長は、神坂優姫と結婚する事を熱望してんじゃん。…それなのに、何でもないひとみちゃんと結婚となると、社長は面白くないよな?」

…言われてみればそうだ。…親父は、ずっと、俺に優姫を押し付けてきた。・・・それでも俺は、ただの一度も、それに傾く事はなかった。…俺にとって優姫は、妹のような存在、そだれけしかなかったから。

「・・・社長を、問い詰めて見たら、案外、簡単に認めると思うけど?・・・もしオレの推理が正しいなら、ひとみちゃん、完璧に、お前から離れていっちまうぞ」

「そんな事!」
・・・いいはずがない。

「ひとみちゃんを手放したくないなら、お前から動かないと、何も解決しないぞ」
「・・・」

・・・そんな事は分かっている。
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