課長さんはイジワル2

第2節 向いてない?

翌週の月曜日。

今朝は前場から相場が大荒れ。

日計り(債券を買って、その日のうちに売却して利益を取ろうとすること。もしくは空売りをして買い戻す)をするには絶好の相場日和。

出来高も増えて、大忙し。

佐久間課長のモニター電話は朝から絶え間なく、売り買いの注文が交錯している。

「佐久間課長、太陽銀行から成り行き(値段を決めないこと)で先物売り20(億)と言ってますが……」

「お前が注文出して」

佐久間課長は既に3本の電話を掛け持ちしている。

そして、同時に伝票を書いている。

かと思えば、コンピュータにデーター入力して、終利(最終利回り)を出して客にオファー。

すごい……!

佐久間課長が千手観音に見える。

こんなとき、この人の凄さを素直に認める。

「おい!20(億)できたか?」

佐久間課長が、2本の電話を両耳に当てながら私に聞いてくる。

いっけない、ぼぉっとしちゃった!


「いっ、今、ディーラーが指しました(注文を入れる事)」

「OK」

私に頼んだ分の発注も忘れてない。

佐久間課長が電話を置くと急いでディーラーの元に走る。

「押尾、引けの5毛5糸甘で20、抜いていいか?」

「いいね!それで取って!」

佐久間課長が親指を立てると、席に戻って電話に出る。

成立。

本日一番の大商いだ。

この日、佐久間課長だけで2650万円稼いだ。

国債を1億売っても(買っても)コミッションは1万円しかつかないことを考えれば、このコミッションがどれだけすごいか……

考えただけでも溜息が出る。


バックオフィスの事務処理をしている女性達からの熱い視線が佐久間課長に集中している。


ゲイって噂が立っていても……

この人は乙女のハートを鷲づかみにしちゃうらしい。


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