妖刀奇譚





思葉はハンドルから手を離して來世を叩くマネをした。


当たってもいないのに來世は首をすくめて顔をしかめてみせる。


自転車に乗っていなかったら、このまま悪ノリし続けていたところだろう。


大きくため息をついてふと顔を前に戻すと、杖をついた老婆が歩いてくるのが見えた。


ぶつかると危ないので、一旦自転車から降りてすれ違う。


しばらく押したところでもう一度跨ったとき、ふわりと思いついたことを思葉は口にした。



「來世、あんた今から暇?」


「え?まあ、今日はテスト明けで塾休むことにしたし、暇っちゃ暇だけど」


「それなら家においでよ。く……この太刀見せてあげるからさ」



またうっかり玖皎の名前を言いそうになり、思葉はどうにかごまかした。


背中で玖皎が小ばかにしたように笑ったのを聞き逃さない。


青江屋で正しい刀の手入れの仕方を教わったとき、彼は打ち粉でやや噎せていた。


次に手入れをするときは思いっきりいじわるしてやろうと心に決めた。



「ええっ、いいのか!?」



気づくこともなく來世が目を輝かせた。


満面に喜色を浮かべて思葉の方にずいと身を乗り出す。


はずみでバランスを少し崩して蛇行運転になる。




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