妖刀奇譚
「今考えてみるとあの人、やっぱり妙だなーって思ってね。
お店に来たとき、買い取って欲しいんじゃなくて、お金はいらないから預かって欲しいって言ってたんだよ。
売りたいっていうよりは早く手放したいって雰囲気だったし、絶対に何か訳があると思う。
それに、櫛について何か知っているのかもしれないからね。
昨日連絡先と住所教えてもらっておいたから、課題が終わったらちょっと行ってくるわ」
電話だと、名乗った瞬間に切られそうな気がする。
昨日うっかり聞きすぎてしまった情報が早くも役に立ちそうだ。
「だから1時間くらい静かにしていてね。
集中できなくなるから、パソコンもウォークマンも我慢してね」
「おい」
「文句言わないでよ。あ、じゃあ下でテレビ観る?」
「いや、そうじゃない。
その棟口というやつの家に行くときは俺も連れて行け」
「えっ?」
計算式を書く腕を止めて、思葉は太刀掛けにある玖皎を振り返った。
前かがみになって鍔のあたりに顔を向ける。
「何言ってんのよ、連れて行けないわよ。
青江さんのところに行くのとは違うんだからね」