妖刀奇譚
「この笑い吸い取り機……」
「ん、なんか言ったか?」
「なんにも」
いつの間にか周囲から田畑はなくなり、民家がせまそうに立ち並ぶ景色に変わっていた。
北側には団地が、その下には家が密集している。
複雑に入り組んでいる道が多いので、ここ一帯に生まれた子どもはみんなこの迷路を走り回って遊んで育つ。
思葉と來世もそれは一緒で、放課後になればしょっちゅうクラスメイトたちと一緒に鬼ごっこをした。
その中で來世がひどい方向音痴であることが発覚し、鬼ごっこをすればほぼ毎回來世の捜索が行われた。
懐かしい思い出のあるこの住宅街は、今でもふとした拍子に気づく程度に変化している。
どこかから幼い声がいくつも聞こえてきた。
ようやく笑いの波がおさまった來世が思葉の背中を叩く。
「それにしても、やっぱ思葉はすげえな。
あんなに簡単に訪問販売追い出しちまうんだもんなー、なかなかできねえよ」
「大げさね、今日のなんか調べたら一発だったじゃない。
今までみたいにあんまり有名じゃない人の作品とかだったらあたしでも難しいわよ」
「何言ってるんだよ、そいつらにも全部勝ってるくせに」
もう一度思葉の背中を叩き、來世は歩道と車道を区切るブロックの上を歩いた。
思葉は突き飛ばしてやろうかと思ったが、この時間帯は車がよく走るのでやめておく。