妖刀奇譚
霧雨玖皎と名乗った喋る太刀と出会い、部屋に置くようになってからもうすぐ3週間が経過する。
名前が少し長いので、思葉は彼のことを玖皎と呼んで接していた。
出会った日から玖皎は気兼ねせずに思葉と会話している。
平安生まれなので現代社会のものが珍しいのだろう、最初の1週間は思葉の部屋にあるものについて質問の雨を降らせていた。
あれは何だ、おまえは何をしているんだ、その言葉はどういう意味だ……思葉は次々に繰り出される質問になるべく答えるようにした。
やや疲れもしたが、人に何かを教えるのは嫌いではないので辟易はしなかった。
思葉も玖皎がつくられた平安時代に興味をもち、日本史の教科書や古典の教科書、資料集を眺めるようになっていた。
けれども、それだけだ。
玖皎は疑問に思ったことは積極的に口にするけれど、それ以外のことではあまり喋らない。
特に部屋の中にあるもので知らないものが減ってきた最近は、あの怒涛の質問攻めが嘘のように静かになっていた。
思葉が話しかければそれなりに反応はする。
玖皎から全く話しかけられなくなったわけではない。
だが何となく、間に見えない線を引かれているように感じるのだ。
それ以上踏み込まず、踏み込ませないように。
玖皎が自分の過去を話したり、思葉の生い立ちについて触れたりしないのがその証だ。