悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜

彼女は、自分の年齢を気にしているよう

だが、俺からしたらまだ27歳だ。


親戚が早婚で、結婚できない自分は行き

遅れだと嘆いている。28までには結婚

相手を見つけなければお見合いして結婚

しなければいけないらしく、こんな歳に

なった自分と誰が付き合ってくれるのか

と悲しむ彼女。


卑下する必要はないのに、周りからのプ

レッシャーに彼女自身が自信をなくして

いるようだった。


『…君は魅力的なんだから、そんな自分

を蔑む言い方はよくない』


『私が魅力的⁈…それならあなたは、若

くもない惨めな私と付き合えるの⁇』


彼女からの誘い…男ならこんなチャンス

を逃す訳がない。


『俺でよければ(君の彼氏になるよ)…君

の魅力を教えてあげるよ』


どんなに君が魅了されているか教えてあ

げる。


君の男になれるなんて光栄だ。


その透き通る白い肌、ふっくらとした胸

があるくせに細い腰に膝下に見える艶か

しい足…そして自覚のない彼女に綺麗だ

と囁き続けた。


朝、目覚めると腕の中にいた彼女の姿が

消えていた。


一夜の遊びにするつもりなんてなかった

のに、彼女がいた気配さえも残っていな

いベッドから体を起こせば、サイドテー

ブルにキラッと光る物。

手にとってみると彼女の耳についていた

ピアスだった。


慌てていたのか、つけていたことを忘れ

ていたのかわからないが、彼女がいたと

いう証。


運命が味方をするなら、また彼女に会え

るだろう……その時までこのピアスは預

かっておこう。


その時の彼女と目の前の女は、似ても似

つかないはずなのに唇の黒子を見て、忘

れていた思い出が頭の中を駆け抜けてい

く。


それにしても、唇の右下に黒子がある女

が他にもいるのかとマジマジと見つめて

しまう。


そんな俺に彼女は、警戒しているのか脅

えているようだった。


あの日の女と似ていないようで似ている

ような⁈


ただ、似ているのは同じ位置に同じ大き

さの黒子があるだけなのに妙に気になっ

た。


親父達と別れても、視線は彼女を探して

しまう。


なぜ、こんなにも気になるのか不思議だ

った。


ふと、彼女の背後に立った瞬間気づいて

しまった。髪をアップにしている彼女の

右の耳縁の裏にあるもう一つの小さな黒

子。


こんな偶然があるのだろうか?


確かめる必要がある。


女は、化粧で変わる…別人に見える彼女

があの日の女なら逃がしはしない。


彼女が1人になる瞬間を見つけ、後を追

いかけた。



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