悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
あの日の彼との情事を体はまだ覚えてい

るのか、甘いタバコの香りが嗅覚を刺激

し、熱を持った唇から徐々に肌が火照り

だし体中に電気が走った。


かすかに身を震わせる私に満々したのか

唇を解放すると、私の頬を撫でる。


「この反応なら必要はないようだな」


朦朧とする余韻の中、彼は何を言ってい

るのだろう?


「君とのくちづけを見れば、面倒な令嬢

達は排除できそうだ。名前を呼ぶより効

果的だろう」


彼は、口角を上げ満足そうに微笑んでい

た。


「……約束が違います」


「必要なキスはいいんだったよな」


「今する必要はなかったと思います。そ

れに、私のいうキスは……」


恥ずかしくて、次の言葉が出てこない。


「…名前も呼べないで恋人のふりができ

るのか⁈腕を組むぐらいじゃ誰も納得し

ない。キスも同じだ…ディープなキスで

もしないと納得しないだろう」


必死の抵抗も虚しく撃沈する。


「……れ‥い…あなたの望む恋人になる

から…もう、今みたいなキスはやめて」


そうでないと……


「……よくできたな。敬語もぬけて少し

は恋人らしくなった」


微笑みとともに繋がれた左手が宙に浮く

と、大きなダイヤの指輪が薬指にはまっ

た。


驚愕する私の頬をもう一度撫で、唇を撫

でるように指先で拭う。


刹那…何も言わせないと言うように唇に

人差し指を立て押しつけると直ぐに離れ

てしまう。


見つめる瞳に扇情が湧き、唇に甘い痺れ

が残る。


そのまま、彼は何も言葉を言わず前を見

据えていた。


手を振り払うこともできず、増して、火

照る体は一向に冷めてはくれなかった。


心を裏切り体は素直に彼を求めていると

いうのに…私の心は彷徨っている。


しばらくすると車は、パーティー会場に

到着したようでドアが開いた。


ドアマンらしき人物が、笑みを浮かべ頭

を下げて挨拶をする。


彼は、私の手をとり一歩足を降ろしたが

、思い出したかのように運転してくれた

峯岸さんに声をかけた。


「峯岸…今日はもう帰っていい。お前も

楽しんでこい」


「…気を使うなんてあなたらしくもない

。ですが、お言葉に甘えて帰らさて頂き

ます」


「あぁ…お互い苦労するな」


この時、峯岸さんをを労っているのだろ

うと思っていた。
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