悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
朝から副社長室の応接室で何をしている

のかと自分に呆れるも、彼とのキスが気

持ちよくて背から頭部へと手のひらを移

動させていた。


「随分積極的だね…」


クスッと笑い、嬉しそうに見つめられる

と恥ずかしくて目をそらしてしまった。


ふわっと体が起き上がり、また彼の膝の

上に乗ると頭をポンポンとされ、彼を見

つめれば困った表情を浮かべいた。


「その顔は、俺の前だけで頼む」


首をかしげれば、ぎゅっと抱きしめられ

た。


「続きは、後で…」


ゾクリとする甘い声で耳元で囁かれ、唇

に優しくキスを落としていく。


「コンコン」


ノックと同時にドアを開け、峯岸さんが

着替えを持って入ってきたが、目の前の

現状に動じることなく涼しい表情であい

さつをしてくる。


「副社長…おはようございます。お着替

えと指輪をお持ちしました」


「あぁ…」


生返事のまま、私の髪を撫で名残惜しそ

うに私の唇を指でなぞっていく。


そして、もう片手を峯岸さんに出すと手

のひらの上に見覚えのある小さな箱が乗

せられた。


受け取り私の目の前でぱかっと開き左手

の薬指にもう一度指輪がはめられた。峯

岸さんの冷たい視線にいたたまれず、失

礼しますと頭を下げ応接間から逃げ出し

てしまった。


彼の視線が、偽物の婚約者を演じる女が

、何をのぼせあがっているのかと言われ

ているようで指輪を眺め涙が頬を伝って

いた。


勘違いなんてしない。


彼とは、偽りの関係


たまたま、側にいた私が彼の欲情を満た

す道具になっただけだと自分に何度も言

い聞かせる。


私も、欲情を満たす為に彼を利用すれば

いい。


お互い、後腐れのない関係なのだ。


この、偽物ごっこが終われば私は、彼の

前から消えるのだから…それまでの遊び

そう思わないと、奥に芽生えた感情を殺

す事が出来ない。


好きになってはいけない人を好きになっ

てしまったのだから…身体だけでも繋が

っていたい。


あなたが求めてくれるなら、心を殺して

この身体を何度だって差し出すわ。





「……宮内さん」


「はい…」


いつ現れたのだろうか?


気づかなかった。


「本日は、昨年度の我が社の顧客リスト

をまとめて、副社長に出しておいてくだ

さい。12時半に池上社長との会食にあ

なたも付き添いをお願いします。机の上

に副社長に確認して頂きたい書類を置い

ておきますので、戻ってきたらあなたは

副社長から判子を頂いて書類を私の元へ

持ってきてください」

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