I'm crazy about you.


七海の両親は割と古風な考え方をするタイプで、それこそ付き合いはじめの離れたくない、一番盛り上がっていた時期なんか、夜六時半の門限に何度泣かされた事か。
帰したくなくて繋いだ手を放せない俺に、七海はいつでも申し訳なさそうにして、ギュッて俺の腕に自分のそれを絡ませるのだ。


そんな事されたら益々放れられなくなるのに、ごめんね、って上目遣いなのがたまらなくかわいかったっけ。
送って行った最寄り駅の駅ビルで、門限ギリギリまで建物の影で七海を抱き締めてた事も、実は一度や二度じゃない。




「おーい!山城帰ってこいって!」
「あ、すいません」

昔にトリップしていた俺は、克哉さんに肩をどつかれてようやく我に返った。



「相談、乗るぞ」

克哉さんのそのひと言で俺の気持ちが傾いた。


三つ年上の克哉さんは、うちの課で営業成績はトップ。
要するに、会社の利益はこの人あってこそ、と言っても過言ではない訳で。
克哉さんの忙しさは半端じゃないはずだから、プライベートな事を聞いてみたいと思ったのだ。



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