結婚前夜ーー旦那様は高校生ーー
 ひと通りのリハーサルが済んで受付に戻ると、父が空のダンボールを片手にぶら下げて立っていた。
「終わった。帰るぞ」
 ぶすっとした口調。今度は機嫌が悪いことがはっきりわかった。なにか言う前に、父は振り返ると悠樹をじろりと見た。
「ご両親とこ泊まるんだろう」
 悠樹は今日、両親や親族と一緒にホテルに泊まることになっている。悠樹がはい、と頷くと、父は再び前を向いた。
「飯くらい付き合え」
 この一週間いつも一緒にご飯を食べてたのに、なにを今さらと夏帆は思った。けれど、
「はいっ」
 悠樹が勢い良く答える。驚いて見上げると、山口さんが夏帆に向かって笑いかけた。
「素敵なお父様とご主人様ですね」
 その言葉に夏帆は曖昧に頷いて、歩いていく父を見た。傘の柄のような後ろ姿。背の高い悠樹を見慣れてるからだろうか。その背中はいつもよりも小さく見えた。

 ねぇお父さん、明日だよ。一緒にヴァージンロード歩くんだよ。

 言いたいことは沢山あるのに、言えなかった。そういうふうにして伝えなかった言葉たちが、昔から沢山あるような気がしていた。
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