らぶ・すいっち



(ああ……やっぱり呆れちゃうよね)

 この半年間。少しは上達したかと思われたが、やっぱり進歩は見えない。
 そのことに講師という立場上、呆れかえってしまったのだろう。

 それもそうだろう。なんせ順平先生は、メディアに引っ張りだこの人気料理家。
 底辺中の底辺にいる私みたいな料理オンチなんて、なかなかお目にかからないだろう。

 いや、でもね。これでも良くなった方なんだよ。
 だって、私。この料理教室に通う前までは、包丁を持てば手を切ってばかりだった。
 それがなくなっただけでも進歩だ。

 なんて、胸を張って大きな声ではいえない進歩だけど。
 やっぱり家で一人、もう一度練習をしよう。少しだけマシになってから、順平先生に見てもらったほうがいい。

 ここまで酷いと、順平先生だって困ってしまうだろう。
 この気まずさを払拭させるように、私はわざとらしく笑いながら順平先生を見つめた。

「えっと、すみません。飾り切りの前に、皮むきすら……というか包丁の使い方がなっていなくてですね……」

「……」

「家で練習してから、ということでいいですか?」

 無言のまま、無残に切り刻まれてしまった大根を見つめる先生。
 その沈黙がとても怖い。

 いつものようにイヤミの一つや二つ言って終わりにしていただきたい。


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