イジワルな旦那様とかりそめ新婚生活
刹那さんが出て行けと言うなら納得できる。だけど、雪乃さんに指図される覚えはない。

これは私と刹那さんとの契約だ。

「帰って下さい。ここは刹那さんの家ですし……仮とはいえ、私は刹那さんの妻です。文句があるなら刹那さんに言って下さい」

「私の話はまだ終わ……‼」

雪乃さんの話は聞かずに、強引に彼女の目の前でドアをガシャンと閉める。

無理に足を踏ん張ったせいか、火傷の跡がズキズキと痛む。

でも、自分を叱って心配してくれる同居人は今はいない。

「ははは……自分から刹那さんの妻なんて言うなんてね」

私は両手で顔を覆いながら、玄関のドアにもたれかかる。

いつの間に彼の存在に心許してしまったのだろう。

さっき別れたばかりだというのに、彼に会いたくてたまらない。彼の顔が見たい。

「冷血メガネ男って思ってたのにね……」

意地悪だけど、時折見せる彼の優しさに胸がきゅんとなる。

彼の笑い声が聞きたい。

「馬鹿」って言って怒って欲しい。

恋をすると人は欲張りになるってよく言うけど、今やっとわかった。

私は刹那さんに恋をしている。
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