シンデレラに恋のカクテル・マジック
 そんな現実を今だけでも忘れようと、菜々はグラスに口をつけた。一口含むと、とろりとした濃厚な甘さが舌にまとわりつく。けれど、レモンジュースのおかげか、甘ったるい感じはせず、ほのかな甘さを残して喉に消えた。

「夏の妖精ってこんなイメージなんでしょうか」

 菜々は潤んだ目でぼんやりと永輝を見た。なんだか世界がにじんで、ゆらゆら揺れて見える。

「おもしろいことを言うね」

 三人に増えた永輝が答えた。

「永輝さんって三つ子だったんですか」

 そうつぶやいた直後、菜々はカウンターに突っ伏していた。 
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