ひねくれ作家様の偏愛
「俺があんたを夢中にさせる話を作る……。誰の手も借りずに」


海東くんの声が身体にずしんと響く。

ああ、ようやく合点がいった。
海東くんが私の打ち合わせも批評も拒否していたのはそういう理由。

彼は私と仲良く作り上げたいんじゃない。
私を惚れさせる話を創りたいんだ。ひとりで、自分だけの能力で。

誰よりも自分の才能を信じたいのは彼。
そのために今、足掻いている。

そんな覚悟なら、受け入れるしかない。
海東くんの才能を彼よりも信じているのは、私なのだから。

彼の背に腕を回そうと腕を伸ばして、思い直してやめる。

ダメだ。勘違いするな。
彼の執着と、自分の執着を恋愛らしく重ねるな。


「楽しみにしてる。今週木曜、取りに来るから」


「……待ってます」


呟くと海東くんは抱擁を解いた。
それから私の顔も見ず、仕事部屋に向かって歩いていく。
幽鬼のような鬼気迫る姿に、それ以上声はかけられなかった。






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