ひねくれ作家様の偏愛
「コーヒー、飲んでってくださいね」


やりとりは済んでいる。
ごく近い距離にいるのに、私たちの視線は絡まない。
私は目をそらしたまま、頷いた。


「うん」


「いつかの朝は……勝手に帰っちゃったから。……一緒に飲めなかったですし」


「……」


私は忘れようとしてきた。
彼もそうだと思ってきた。

だけど、違うみたいだ。


私も海東くんも、結局“あのこと”が引っかかっている。
だから、私たちは前に進むも、後に戻るもできない。


作家と担当編集者としても。
ただの男女としても。

中途半端な関係のまま、向き合ったって顔すら見られないのだ。




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