ごめん、好きすぎて無理。
Prologue
『あ、陸!』
会社からまっすぐ帰宅し、自分の家のリビングに入るなり、弟の海が俺の名を呼んだ。
『あー海、お疲れー』
俺はキッチンにある冷蔵庫からビールを取り出し、乾いた喉を一気に潤した。
『あぁー、うめー!』
ビールのあの独特の苦味を味わい、感想を述べると、クスッと笑う声がした。
俺はその笑う声に気づき、視線を移し、笑った張本人を視界に入れた。
と、同時に持っていたビールが床に落ちそうになる。
何故なら、そこにはー…。
『はじめまして、お兄さん』
そこには微笑みながら、会釈する一人の女性の姿が視界に映る。
『海君とお付き合いしてます、笹本 紗奈と申します』
そう言って、海の彼女の笹本さんが優しく微笑む。
神様、これは、いったい何の罰でしょうか?
俺は何か、あなたを怒らせるようなことをしましたか?
『…はじめまして』
俺は目の前にいる、海の彼女に戸惑いつつも挨拶を交わす。
『陸、この人がこの間言ってた、俺の彼女!
言ってた通り、すっげー美人でしょ?』
何も知らない海はすごく嬉しそうに、彼女を俺に紹介した。
『あー…うん…』
戸惑う俺に、海は嬉しさのあまり、俺の様子に気がついていなくて。
戸惑う俺に、海の彼女は何事もなかったように微笑んでて。
俺、一人だけがその場の雰囲気に戸惑ってる。
『お兄さんって、陸さんっていうんですね?
本当に海君とそっくり♪』
口元を手で隠しながら、紗奈はそう言った。
クスっと笑う、その声だけが海の彼女の口元から聞こえてくる。