ストックホルム・シンドローム


「りんごを切ったんだ。僕が食べさせてあげるよ」


皿の上に盛ったりんごの切れ端を掴み、沙奈の口の中へと運ぶ。


沙奈の唇が時たま僕の指先に触れて、温かさを感じずにはいられなかった。


…沙奈の唾がついた指先を、少しだけ、舐めてみる。


…どんな高級な食べ物よりも美味しい、沙奈の味がした。


「…美味しい?」


「…うん」


「そう。沙奈はりんごが好きなんだ。僕も大好きなんだよ」


沙奈の口元が、ぎこちなく、ほんの少しだけ、弓なりに弧を描く。


「…大好きだよ。沙奈も」


抱き締めると感じる沙奈の鼓動は、日を追うにつれ、速くなる。


それは僕の鼓動と共鳴し、心地の良いリズムを刻んでいった。


…ゆるやかに流れていく沙奈との時間が、僕にとっては最愛の時なのだから。


沙奈にキスをし、舌を絡ませる――。




幸せな日々が、続いた。


けれどある日。


沙奈が言った。


「…あなたは、
どうして私を監禁したの?」と。


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