ハートブレイカー
それから私は、帰り道、通りがかったコンビニで、便箋と封筒を買 った。
家に帰って夜、辞表を書き、封をした。

正直言って、妊娠中の身で仕事を失うのは痛い。
でもあそこにはいられない。
何より、私にとってはあんなに情熱的な一夜をともに過ごした後で、また今までどおり彼と仕事をしていたこの数週間は、本当に辛かっ た。

彼がアメリカへ出張してくれていた2週間は、顔を合わせることはなかったけど。
でもメールの内容は、全て仕事に関することだけだったし、電話で話すことは一度もなかった。

それは今までどおりですけど。

今では彼がそばにいるだけで、その場は地獄と化し、声を聞けば拷問されてるとしか思えない。
だから・・・うん、何とかなる。

高卒で今の会社に就職してちょうど10年。
それなりに貯金もある。
ちょっとだろうけど退職金も入るかもしれない。
自己都合での退職だから、失業手当はすぐ出ない・・・ううん、私は行方をくらませるんだ。
つまり、会社サイドから連絡が取れないようにする。
ということは、失業手当をもらえることを、あてにしてはいけない。
・・・大丈夫、大丈夫。
私は何度も心の中でそう唱えながら、おなかを撫でていた。


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