常務サマ。この恋、業務違反です
それでも、自分でそんな言葉を用意してる辺り、加瀬君もこの結末を読み切ってたんだろう。


一週間前から食事も喉を通らないくらい緊張して、怯えていた小心者の加瀬君。
そんな姿ももう八回目だけど、私も鬼じゃないから、うんうんと頷いて笑って見せる。


「……でも、報告書提出したら、今回も課長に怒られて部長に呼び出されるんだろうけど……」

「それを言うなああああっ!!」


もう辺りを気にする余裕もないらしい。
加瀬君は、ハゲが出来るんじゃないかってこっちが心配になるくらい凄い勢いで髪を掻き毟って、ビブラートのかかった美声をオフィスにもう一度お見舞いした。
オフィスに残った事情を知らない他部署の社員が、迷惑そうにこっちをチラ見している。


ああ、ダメだ。
これじゃあ、せっかくの週末を潰してる社員の仕事の妨げになる。


「……飲みに行こっか?」


四半期毎に同じセリフを加瀬君に向ける時の私は、自分でもお釈迦様のようだと思う。
そして加瀬君は本当にうるうるした瞳を私に向けて、肩越しに後光でも見えているんじゃないかと思うくらい、魂が抜けた様子で、うん、と頷く。


最初にこんな加瀬君を見た時は、驚きも手伝って結構必死に慰めようとしたものだけど。
これまで七回も同じことを繰り返していると、もうほとんど義務みたいなものだと思ってしまう。


それに、加瀬君が完全に匙を投げてしまって、その結果このクライアントの担当がこっちに振りかかってきたりしたら……と思うと。


加瀬君には、今後もぜひとも頑張ってもらわなきゃいけない。
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