会社で恋しちゃダメですか?


「おっはよ」
営業の山本朋生が、目の前のデスクにどかんと座る。買って来た缶コーヒーを開けて、あっという間に飲み干した。


「朋生は、能天気よね」
紀子がとがめるような声でそう言った。


「そうか?」
出社そうそうネクタイを緩める朋生は、心配性の紀子をからかうように見る。


「だって、この会社どうなるかわかんないんだよ」
「そうかもしれないけど、まだ何も決まってないじゃないか。それに、あんなおっきな化粧品会社が親会社になるってうれしいじゃん? お給料アップとかあるかも」
朋生はにやりと笑った。


「楽天家」紀子が言うと、
「そのほうが人生楽しいだろ」と朋生が言い返す。
二人はいつもこんな感じで、ぽんぽんと言葉を交わす。口べたで思ったことをなかなか表現できない園子は、二人の会話がうらやましい。加えて、朋生と話す紀子はいつも楽しそうで、もしかして朋生のことが好きなんじゃないだろうか、とそのは勘ぐったりしてしまう。それくらい二人は気があっていた。


「ちょっと、いいか?」
オフィス前方のパーテーションで区切られたところから、田中専務が出て来た。営業部の二十名ほどが、一斉に田中を向く。田中専務は、長くこの会社に勤めている。低い身長に、はげ頭。お酒が入るとご機嫌で、権力に弱いタイプだ。園子はあまり好きじゃなかったが、なぜか田中に気に入られていて、いつだって一番に呼ばれてしまう。


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